昨日の話
11月23日
別に何がある訳でもない
祝日、というだけのこの日
朝の6時、あくび混じりに家を出る
街はまだ眠っている
仙台の街は8時くらいにならないと起きない
気温は4度、もはや冬
こんな時間にこんな場所を歩く理由
寒さに耐えながら、向かうのはリンの家
なんてことは無い
ただ呼ばれたのだ
勝手に人の夢に出てきて我儘を言ってきやがった
『そろそろ線香くらいほしいんだけど』
と
贅沢なことをわざわざ言いに来たんだから、呆れるよ、ほんと
坂を下り、途中右に曲がれば見える大きなお家
そこが彼女の家
そこが彼女の死んだ場所
そして彼女が眠る場所
聞くところによると、墓はないらしい
あるにはあるが、そこはいろんな人の墓にもなっているようで
拝んでも誰に拝んでんのかわからなくなるから、俺は仏壇に手を合わせるようにしている
7時30分くらい
インターホンを鳴らすと、出たのはリンの妹
今年から大学院生らしい
この子ともいろいろあった
お姉ちゃんが死んだのは俺のせいだと彼女は当時俺を責め立てた
俺が言ったのは一言だけ
キミはあいつに何をしたんだ
と
当時中学一年生だった彼女にはとても重い言葉だっただろう
彼女とはそれ以来会っていなかった
母はまだ仕事から帰ってない、と彼女は言った
あいつに呼ばれたから来たよ、と簡単に説明する
するとやけにすんなり通してくれた
嫌われてると思っていた
でも大人になった彼女が口にしたのは、あの時とは真逆のことだった
あなたのせいではなかった、お姉ちゃんの悩みに気付けなかった私の責任だった、と、彼女は涙を流しながら話した
俺は彼女の肩を掴んで言った
「死を選んだのはあいつだ、誰のせいでもない。お前が気に病むことも、自分を責めることも無いんだ。」
仏壇の前に正座する
線香に火をつけ、手を合わせる
来たこと
これまであったこと
今あったこと
これからするであろうこと
どうやって生きて
どうやって死んで
何をやって笑って
何をやって泣いた
得たもの
失ったもの
その全てを話した
リン、俺は正しいことしてるかな
お前の夢を正しく理解してるかな
こんな俺にもできるかな
こんな中途半端な俺でも出来るのかな
そんなことを聞きながら
そんな不安を胸に、答えのでない疑問を抱いて、それでもおそらく前へ進む
その先にあるものが例えなんであろうと進まなければならない
そう感じながら、立ち上がり、また来るね、なんて言いながら玄関へ行く
するとリンの妹が背中を押してきて、あいつにそっくりな声でこう言った
一人で抱え込まないでくださいね?と
その言葉を背に、歩き出す
日常を取り戻し、騒がしくなった街を歩く
俺は1人ではないのだ、と改めて感じた日だった